成人の精神疾患

うつ病

うつ病は1年の間に2.8%の人が罹患するという頻度が高い疾患です。日本人の380万人以上が罹患しています。しかし、うつ病で精神科医にかかる人は14%であり、日本人の多くはうつ病とは知らずに生活したり、時には自殺したりします。
 うつ病の原因は、職場不適応、学校不適応、過剰労働、喪失体験、人間関係の問題、介護疲労など個人で異なります。
 子どもから高齢者まで発病する身近な病気です。子どもでは不登校の原因となったり、体の症状(頭痛、腹痛、めまい、体の痛みなど)として出現する場合があります。大人では抑うつ気分というネガティブな気分や意欲低下などで自覚されます。高齢者になると認知症に似たような物忘れなどの症状がでる場合もあります。
 うつ病は気分障害と言われ、その中心の症状は「抑うつ気分」「喜びの喪失」「意欲低下」です。こうした気分が2週間以上続いていると診断がほぼ確定されますが、1週間以上、つまり週末が来ても気分が改善しない場合には受診してください。
「抑うつ気分」とは、気分の落ち込み、気分が晴れない、空しさ・悲しさ、淋しさ、孤独感などの気分です。
「喜びの喪失」とは、以前まで楽しめていたこと(音楽、映画、読書、人付き合いなど)に対して喜びが見いだせない状態です。
「意欲低下」は最初「おっくう感」で自覚されます。とにかく、おっくうでしかたない。何もやる気にもならない、仕事が手に着かない、立ち上がるのも面倒だなどが自覚されます。

案外に知られていないのが身体症状です。 全身倦怠感、易疲労感,食欲低下、体重減少,性欲減退,便秘、下痢,口渇、頭痛・頭重感、肩こり,動悸、胃痛、眼痛、めまい、耳鳴り、手足のしびれなど・・・・・・。 こうした症状は検査を繰り返しても異常が見つからず、うつ病の診断がなされないまま内科薬だけで治療を受けていることが多いので注意が必要です。
内科治療で改善しない場合にはご相談ください。

注意:うつ病が進行すると「死にたい気持ち」が出てくることがあります。鉄道人身事故の多くがうつ病という報告もあります。
 死んでしまったらおしまいです。

 必ず気分は戻ります。「雲の向こうは晴れている」はずです。
 死ぬ前に受診してください。

治療は、薬物療法、精神療法、家族支援などを組み合わせて行います。

文献
1)Kawakami N, Takeshima T, Ono Y, Uda H, Hata Y, Nakane Y, Nakane H, Iwata N, Furukawa TA, Kikkawa T. Twelve-month prevalence, severity, and treatment of common mental disorders in communities in Japan: preliminary finding from the World Mental Health Japan Survey 2002-2003. Psychiatry Clin Neurosci. 2005;59(4):441-52.

2)Naganuma Y, Tachimori H, Kawakami N, Takeshima T, Ono Y, Uda H, Hata Y, Nakane Y, Nakane H, Iwata N, Furukawa TA, Kikkawa T. Twelve-month use of mental health services in four areas in Japan: findings from the World Mental Health Japan Survey 2002-2003. Psychiatry Clin Neurosci. 2006;60(2):240-8.


 

不安障害

不安障害も思春期から高齢者まで認める頻度の高い病気です。世界には2.7億人の不安障害患者がいます。男性の2.8%、女性の5.2%に認めます(文献)。
  この病気の根本にあるのは「不安」です。私達は誰もが不安を体験しますが,不安障害では、「強烈な不安」「突然の不安」「改善しない不安」などを認めます。
 症状
 動悸、めまい、ふるえ、胸の痛み,冷汗など体の症状であるため、内科や小児科を受診することが多い疾患です。
 体の問題がないと診断された場合には、これらの症状は不安障害である可能性があるため一度ご相談ください。  コントロールできない激しい不安が突然に生じる場合がパニック発作、この症状がメインな不安障害が「パニック障害」です。
  パニック発作を一度体験すると,再び生ずることが怖いので常に不安を意識することになり緊張した日々が続きます。
 特定の状況でパニック発作が生ずる場合があります。高所恐怖,閉所恐怖,乗り物恐怖など,ある対象や状況で不安が生ずる場合を「恐怖症」と言います。
 不安障害は内服薬により症状が改善することが多く,薬の助けで社会適応を高めることが大切です。児童・生徒の場合には「ひきこもり」の背景に不安症があることが少なくありません。
 私の経験では、数年、ひきこもりとして家にいた子が、実は不安症で薬で改善し社会適応した場合もありました。

文献
Vos, T; Flaxman, AD; Naghavi, M; Lozano, R; Michaud, C; Ezzati, M; Shibuya, K; Salomon, JA et al. (2012-12-15). “Years lived with disability (YLDs) for 1160 sequelae of 289 diseases and injuries 1990–2010: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2010”. Lancet 380 (9859): 2163–96. doi:10.1016/S0140-6736(12)61729-2PMID 23245607.

 

睡眠障害

  健康のために睡眠はたいへん重要です。睡眠は、心身の疲労回復をもたらすとともに、記憶を定着させる、免疫機能を強化するといった役割ももっています。健やかな睡眠を保つことは、活力ある日常生活につながります。
  睡眠障害というと不眠症を考えがちですが、不眠症以外にも様々な病気があり、多くの人々が睡眠の問題を抱えていることがわかってきました。夜の睡眠が障害されると、眠気やだるさ、集中力低下など日中にも症状が出現します。睡眠の問題と日中の問題は、表と裏の関係にあるといってもいいでしょう。このような、睡眠の問題や日中の眠気の問題が1カ月以上続くときは、何らかの睡眠障害にかかっている可能性が考えられます。睡眠障害は、その原因によって治療法も異なります。適切な治療を受けるためにも、自分の睡眠状態や睡眠の問題を把握しておくことは重要です。
 お困りの方はご相談ください。
(厚労省ホームページより)

 

強迫性障害

 強迫性障害では、自分でもつまらないことだとわかっていても、そのことが頭から離れない、わかっていながら何度も同じ確認をくりかえしてしまうことで、日常生活にも影響が出てきます。意志に反して頭に浮かんでしまって払いのけられない考えを強迫観念、ある行為をしないでいられないことを強迫行為といいます。

 たとえば、不潔に思えて過剰に手を洗う、戸締りなどを何度も確認せずにはいられない、鍵をかけたか気になるといったことがあります。
こころの病気であることに気づかない人も多いのですが、治療によって改善する病気です。「しないではいられない」「考えずにいらない」ことで、つらくなっていたり不便を感じるときは受診してください。
(厚労省ホームページより)

 

統合失調症

 統合失調症は幻聴や妄想などが目立つ疾患ですが世界人口の約1%の発病率であり身近な病気なのです。その症状特性のため,わが国では偏見や差別の対象になっていた時代もありましたが現在では患者さん自身が発言するなど,社会的認知も広がりました。
 ナッシュというノーベル賞をとった数学者は統合失調症と闘いながら人生を送りました。それは「ビューティフルマインド」として映画化され世界中に感動あ与えました。草間彌生も同じように病気と闘いながら世界的芸術家になりました。
 早期発見、早期治療の意味が非常に重要です。薬物療法が必須となりますが,薬で症状が改善できれば社会適応を維持することが可能です。
 発症年齢は中学生くらいから30歳代です。本人は幻聴や妄想を信じており,病気という実感がない場合もありますので,治療には家族の協力が不可欠です 代表的な症状は、「誰もいないのに悪口が聞こえる」「2人が話している内容は自分の悪口だと思う」「誰かに監視されている」「盗聴機が仕掛けられている」「自分の考えがみんなに伝わる」「他人の考えが自分に入ってくる」「頭に電波が入ってくる」などです。時に、「明日にでも世界が滅びる」といった世界没落体験を経験することもあります。

 上記のような症状がある場合には統合失調症の可能性があります。
 早期治療によりその後の経過が大きく変わるので,早期の相談をお願いいたします。

 

双極性障害

 昔でいうところの躁うつ病です。躁状態とうつ状態を繰り返します。数週間、数ヶ月単位で変動するものです。薬物療法でコントロールが可能であり社会適応している方は大勢います。
 

認知症

  認知症とは、脳という思考や感情の司令塔の組織が、小さな脳梗塞や脳細胞の変性によって機能低下を起こし生ずる病気です。
 85歳以上では4人に1人が認知症という時代になっています。
 記憶の障害が一番に目立ちます。
 早期発見、早期治療が非常に重要です。以下のような症状が認められた場合には受診してご相談ください。
アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症,前頭側頭型認知症などがあげられます。
症状としては以下があげられます。
  • 物忘れが目立つ
  • 何度も同じことを聞く
  • 人柄や性格が変わった
  • 時間や場所がわからない
  • 風呂に入りたがらない(着替えには認知機能が必要なので)
  • 新しい電気製品が使えない(覚えられない)
その他、高齢者で気になる方は気軽に受診してください。認知症のように見えて、うつ病の場合もありますし、背景に身体の病気が潜んでいることもあります。

 
 
 

喪失体験と悲嘆(グリーフ)そしてペットロス

  大切な人、環境、役割、地位などを失う、重篤な病気になることを対象喪失といいます。その体験が喪失体験です。悲嘆(グリーフ)を伴います。
 最初は、喪失を認めません、まだ、心の中には居るし戻ってくると思っているからでっす。しかし現実には、元には戻らないことを知ると落胆、悲しみ、孤独が襲ってきます。
 そして、対象がない世界に適応する方法を考えて、新しい生活スタイルを探していきます。しかし、これは簡単なことではありません。
 悲嘆には、正常な悲嘆と病的な悲嘆があり、病的な悲嘆に陥るとうつ病やアルコール依存に移行することがあります。
 辛く淋しい、孤独や喪失感から抜けられない人はご相談ください。

 大切なペットを亡くされた方
 ペットロスは、時には人間以上に強い悲嘆を体験させます。今ではペットが人間の身体や心にとても良い影響をもたらすことが調査されています。ペットは深い部分で私達と繋がっているのです。
 ペットを亡くされた方もご相談ください。院長もペットロスを体験していますし、ペットロス協会とも繋がりがあります。
 


 

パーソナリティ障害

 パーソナリティ障害は,性格傾向の著しい偏りです。そのため,学校,会社,家庭生活で不適応が生じやすく,その結果として二次的にうつ病,不安障害,統合失調様の症状が出ることがあります。こうした二次的な症状には薬を出す場合があります。
 パーソナリティを根本から変えることは難しいのですが,精神分析的精神療法のトレーニングを受けた専門家であれば,感情のコントロールの改善,自己洞察力の向上,対人関係の安定など目的とした精神分析的精神療法が行えます。
 当院では,自費診療の精神分析的精神療法を行っています。
 精神分析的精神療法が適応となるパーソナリティ障害は以下です。
境界性パーソナリティ障害
 慢性の空しさ,突然の気分変調,見捨てられ感情が心を支配し,対人関係は全て良いか全て悪いの二極を揺れて不安定になります。見捨てられたくないために,我を忘れた努力を行い、リストカットなどの自傷行為を繰り返します。

 

成人期の自閉症スペクトラム障害(ASD)

 自閉症スペクトラム障害は大人になってもその特徴は変わりません。学校ではなんとか適応しましたが、就労して社会的な人間関係に触れると適応不良になりますし、夫婦関係などで葛藤を引き起こす場合もあります。

特性
 場面に応じた言葉遣いができない。
上司の指示を字義通りに理解する。要するに気持ちや空気が読めない。自身の正論を押し通すといった特徴があります。
 処理能力や対応能力を超えた、経験もなく、見通しがもてない対人状況にさらされた時に「自分がやってきた適応的な行動」が妨げられた時に混乱したり怒りが出ます

 この障害で重要なのは、知的な理解力を活用し自分を理解することです。
 特徴についての正確な診断が大切です。強さと弱さ、長所と短所などを知的に理解することです。
 診断がつくことで自分をより客観的に理解することができ、仕事でいままでとは異なる対応ができるようになったり、本当に苦手なものを効率的に回避することができるようになることがあります。
 自分は自閉症スペクトラム障害の可能性があるのでは、と悩まれている方は一度ご相談ください。
 

     

 

DV(ドメスティックバイオレンス)

女性の被害者の場合がほとんどです。これは家庭内の問題として片づけられ、表に出てこない場合もあります。しかしDVは心に深い傷を残します。DVと意識されていない場合もあります。パートナー側の問題もありますが、DVを許容してまでも関係を維持しようとする被害者側の心の問題も関係していることがあります。
 DVは犯罪です。「夫に知れたら」と相談を躊躇する場合もあるでしょう。守秘義務を守り診療を行いますが、複雑な事例も多く、詳細を参考にしてください。
 

大人のADHD

大人のADHD(注意欠陥多動症、あるいはその傾向が強い人)ではないか心配する方が多く来院しています。就職してから、不適応(落ち着きがない、情報の同時処理が出来ない、不注意、約束の忘れ、熱中すると他のことを放ってしまう、耳からの入力がダメなど)に気がつく方がいらっしゃいます。大人のADHDは幼少時期から生育歴や職歴などを聞いて、診断基準(DSM-5,ICD)に即して診断します。希望がある方には心理検査を行います。治療は薬物療法(希望のある方)と精神療法(適応の工夫など心理教育的支援)、必要があれば家族療法(家族に理解して協力してもらう)です。30分の保険診療で対応します。
 

心的外傷後ストレス障害とトラウマ

突然の事故や災害(交通事故、就労中の事故、天災など)あるいは、突然の死別や別れ、他人からのひどい暴力や暴言などは心を傷つけます。心的外傷(トラウマ)の後次のような症状があったら受診してください。

1.フラッシュバック(何かやっていても、トラウマのことが蘇る)
2.悪夢(嫌な夢、怖い夢をみる)
3.緊張と不安(どこにいても安心できない)
4.外傷場面を避ける(トラウマ体験を連想させる場所、時間、名前、テレビなどを避ける)

 交通事故の被害者の方へ、身体的問題が解決しても上記の問題がある場合には受診してください。保険の支払いや損害賠償に関係することが多々あります。